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組織犯罪に対する一般予防論

振り込め詐欺などの組織犯罪の裁判において,検察官が一般予防論を主張することがよくあります。

社会問題化している犯罪については,今裁判を受けている者に厳罰を科すことで,後に続こうとする者が思い止まるようにすべき,という考え方です。

このような考え方は,将来の犯罪者が負うべき責任を,目の前にいる被告人に肩代わりさせるようなもので,たとえ一般情状の限度で考慮されるに過ぎないとしても,行為責任主義にそぐわないように思われます。

また,仮に一般予防論を肯定したとして,首謀者に厳罰を科すことが一般予防に資するとしても,末端の人間についても同様といえるかは,よく考えてみる必要があります。

例えば,背後に反社会的勢力が控えている,十分に組織化された集団による振り込め詐欺の場合,捕まる危険性が最も高い出し子を首謀者が担うことはまずありません。

では,どういう人間が出し子をやっているかといえば,割の良いバイト感覚で安易に関わる大学生などが典型です。

そして,このような大学生にも厳罰が科され,被害額が大きければいきなり実刑ということも珍しくありませんが,その際,首謀者もきっちり処罰されているケースは稀で,捕まらずじまいで終わっていることも少なくありません。

組織犯罪の青写真は,首謀者の頭脳から生み出されるもので,そのような人間は常に刑事司法の動向を気にしていますから,首謀者に厳罰を科すことで,後に首謀者となり得た悪賢い人間が思い止まることは,楽観論としてはあり得るのかもしれません。

しかし,いかに末端の人間に厳罰を科そうと,愚かな大学生がいなくなることはありませんし,判例傾向を踏まえて賢く思い止まるように,などというメッセージが彼らに届くとも思えません。

かえって,逃げおおせた首謀者に,今回ぐらい巧妙に事を運べば捕まりませんよ,という,一般予防の見地からもマイナスのメッセージを発してしまっているようにすら思われます。

結局,一般予防論をもって末端の人間に対する刑罰を加重しようとすることは,具体的妥当性を欠くだけでなく,首謀者が逃げおおせることの多い実情に鑑みると,実際は蜥蜴の尻尾切りをしたに過ぎないのに,犯罪組織を懲らしめることができたかのように見せかけているようなもので,どうしても捜査機関に不甲斐なさを感じてしまうところです。

末端の人間の弁護をすることが多い私としては,捜査機関がことごとく首謀者を捕らえ,犯罪組織を一網打尽にしてくれる日が来ることを期待しています。(末原)

 
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