被害者が,被告人の弟に暴行を加えた上,その背中に右足を乗せて立っていたところ,被告人を押さえていた被害者の仲間が手を離した隙に,被告人が,被害者の右脇腹に,あらかじめ置いておいたシースナイフを突き刺し,出血性ショックで死亡させたという事案で,東京高裁は,「被告人は,被害者らを挑発して,被告人に暴力を加えるために被害者らが被告人方に来る事態を招き,被害者らが被告人方に来て暴行を加えてくる可能性がかなり高いと認識していながら,そのような事態を招いた自らの発言について被害者らに謝罪の意向を伝えて,そのような事態を解消するよう努めたり,そのような事態になっていることを警察に告げて救助を求めたりなどすることが可能であったのに,そのような対応をとることなく,被害者らが暴行を加えてきた場合には反撃するつもりで,被告人の弟を被告人方に呼ぶとともに,殺傷能力の高い本件シースナイフを反撃するのに持ち出しやすい場所において準備して対応し,被害者らから暴行を受けたことから,これに対する反撃として本件刺突行為に及んだものであり,被害者らによる弟及び被告人に対する暴行が被告人らの予期していた暴行の内容,程度を超えるものではないことをも踏まえると,本件刺突行為については,正当防衛・過剰防衛の成立に必要な急迫性を欠くものといえる」として,過剰防衛の成立を認めた原判決を破棄しました。
本判決は,積極的加害意思についての先例(最決昭52.7.21)や,自招侵害についての先例(最決平20.5.20)は引用しておらず,侵害回避義務論と同様の発想に基づいた事例判断といえますが,確たる判断基準に依拠していないことが,原判決の結論との齟齬を招いているようにも見え,最高裁による整理が望まれるところです。(末原)
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