法定刑
大麻(マリファナ)を所持・譲渡し・譲受け・使用等した場合,1月以上7年以下の拘禁刑に,営利目的で行った場合,1年以上10年以下の拘禁刑または1年以上10年以下の拘禁刑及び1万円以上300万円以下の罰金に,それぞれ処せられます(麻薬及び向精神薬取締法66条,66条の2,27条1項)。
また,大麻を輸出入・栽培等した場合,1年以上10年以下の拘禁刑に,営利目的で行った場合,1年以上20年以下の拘禁刑または1年以上20年以下の拘禁刑及び1万円以上500万円以下の罰金に,それぞれ処せられます(麻薬及び向精神薬取締法65条,大麻草の栽培の規制に関する法律24条)。
もっとも,輸出入については,関税法違反が別途問題になり,1月以上10年以下の拘禁刑もしくは1万円以上3,000万円以下の罰金またはその併科に処せられますので,法定刑が重い方で考えることになります(関税法109条1項,69条の11第1項1号)。
なお,所持・譲渡し・譲受け・使用等行為から5年,営利目的で行った場合は7年,輸出入・栽培等行為から7年,営利目的で行った場合は10年で時効になります(刑事訴訟法250条2項3,4,5号)。
弁護方針
逮捕等回避
大麻の場合,覚醒剤や大麻以外の麻薬とは異なり,逮捕・勾留を回避できる可能性があります。
ただし,法改正により麻薬の一種と位置づけられ,厳罰化されたことに伴い,逮捕・勾留回避は年々難しくなっていくものと想定されます。
早期に弁護士に相談し,自首も検討しつつ,逮捕・勾留回避活動をしっかり行い,逮捕・報道回避,釈放獲得を目指す必要があります。
仮に勾留され,起訴されてしまったとしても,弁護士が適切な内容の保釈請求をすれば,保釈が認められる可能性は十分にあります。
もっとも,最近の同種前科があるなど悪質な事案の場合,保釈が認められないこともあります。
このような場合,裁判がある程度進んだ時点で,再度保釈にチャレンジすることになります。
認め事件
大麻の場合,贖罪寄付,自首,依存症治療,家族など監督者の存在のアピールなどが必要になってきます。
大麻は,国によっては合法なこともあり,違法性の意識が薄い方も少なくありませんので,まずはその点を改め,罪を犯したことを自覚することが出発点になります。
また,薬物関係者との接触を一切断つ必要がありますので,実家に戻るなどして家族等の監督に服しつつ,携帯を一旦解約するなどの措置を取る必要があります。
ご本人やご家族の更生への決意はもちろん,そのための環境がどれほどの具体策をもって整備されているかが,裁判における最も重要なポイントになります。
また,弁護士が行為の態様・結果・動機といった基本的な部分もきちんとチェックし,当該大麻行為が同種事案の中で特に悪質とまではいえないと主張できるような要素を,漏れなく拾い上げる必要もあります。
なお,所持・使用等の単純な事案で,かつ初犯である場合,検察官が即決裁判手続を選択することもあります。
即決手続が選択された場合,原則起訴から2週間以内に裁判が行われ,そこで判決まで下されます。
即決手続における判決には,執行猶予を付すものとされており,被告人にとってメリットが大きい手続ですが,検察官がこの手続を選択するには,弁護士の同意も必要ですので,弁護士の方から即決手続を選択するよう積極的に働きかけていくことが重要です。
否認事件
大麻の場合,捜査段階では,頻繁に接見するなどして取調べ等の捜査状況を把握すると共に,終局処分の見通しを早期に把握することが必要不可欠です。
所持や使用などの場合,現に大麻が押収されていたり,尿から大麻成分が検出されていたりして,犯罪成立は明らかと見られることが多いので,大麻は同居人のものである,知らないうちに投与されてしまった,などといった言い分が認められるかどうかは,客観的状況を踏まえて慎重に判断する必要があります。
一方,譲渡しや譲受けなどの場合,大麻の現物が存在せず,薬物関係者の供述しか存在しないことも少なくありませんので,嫌疑不十分を主張する余地があるといえます。
被疑者自身は,黙秘権行使を原則とし,あえて積極的に供述していくときは,弁護士と相談しながら慎重に行っていく必要があります。
裁判段階では,まず弁護士が検察官証拠を吟味し,その上で網羅的な証拠開示請求を行って開示証拠を精査し,弁護士と被告人が綿密に協議しながら,検察官立証の要を崩す方策を見つけ出す必要があります。
要となる検察官証拠に対する証拠意見はすべて不同意として,証人の証言の不合理な部分を反対尋問で徹底的に弾劾したり,被告人に有利な証拠を積極的に収集・提出したり,被告人は無罪であることを弁論で強力かつ説得的に論じたりするなど,事案に応じ様々な手を打っていくことになります。
関連条文
麻薬及び向精神薬取締法第2条
1 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 麻薬 別表第一に掲げる物及び大麻をいう。
一の二 大麻 大麻草の栽培の規制に関する法律第2条第2項に規定する大麻をいう。
六 向精神薬 別表第三に掲げる物をいう。
麻薬及び向精神薬取締法27条
1 麻薬施用者でなければ,麻薬を施用し,若しくは施用のため交付し,又は麻薬を記載した処方箋を交付してはならない。ただし,次に掲げる場合は,この限りでない。
一 麻薬研究者が,研究のため施用する場合
二 麻薬施用者から施用のため麻薬の交付を受けた者が,その麻薬を施用する場合
三 麻薬小売業者から麻薬処方箋により調剤された麻薬を譲り受けた者が,その麻薬を施用する場合
2 前項ただし書の規定は,麻薬施用者から交付された麻薬又は麻薬処方箋が次項又は第4項の規定に違反して交付されたものであるときは,適用しない。
3 麻薬施用者は,疾病の治療以外の目的で,麻薬を施用し,若しくは施用のため交付し,又は麻薬を記載した処方箋を交付してはならない。ただし,精神保健指定医が,第58条の6第1項の規定による診察を行うため,N―アリルノルモルヒネ,その塩類及びこれらを含有する麻薬その他政令で定める麻薬を施用するときは,この限りでない。
4 麻薬施用者は,前項の規定にかかわらず,麻薬又はあへんの中毒者の中毒症状を緩和するため,その他その中毒の治療の目的で,麻薬を施用し,若しくは施用のため交付し,又は麻薬を記載した処方箋を交付してはならない。ただし,第58条の8第1項の規定に基づく厚生労働省令で定める病院において診療に従事する麻薬施用者が,同条の規定により当該病院に入院している者について,六―ジメチルアミノ―四・四―ジフェニル―三―ヘプタノン,その塩類及びこれらを含有する麻薬その他政令で定める麻薬を施用するときは,この限りでない。
5 何人も,第1項,第3項又は前項の規定により禁止される麻薬の施用を受けてはならない。
6 麻薬施用者は,麻薬を記載した処方箋を交付するときは,当該処方箋に,患者の氏名(患畜にあっては,その種類及びその所有者又は管理者の氏名又は名称),麻薬の品名,分量,用法用量,自己の氏名,免許証の番号その他厚生労働省令で定める事項を記載して,記名押印又は署名をしなければならない。
麻薬及び向精神薬取締法65条
1 次の各号のいずれかに該当する者は,1年以上10年以下の拘禁刑に処する。
一 ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬を,みだりに,本邦若しくは外国に輸入し,本邦若しくは外国から輸出し,又は製造した者(第69条第一号から第三号までに規定する違反行為をした者を除く。)
二 麻薬原料植物をみだりに栽培した者
2 営利の目的で前項の罪を犯したときは,当該罪を犯した者は,1年以上の有期拘禁刑に処し,又は情状により1年以上の有期拘禁刑及び500万円以下の罰金に処する。
3 前2項の未遂罪は,罰する。
麻薬及び向精神薬取締法66条
1 ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬を,みだりに,製剤し,小分けし,譲り渡し,譲り受け,又は所持した者(第69条第四号若しくは第五号又は第70条第五号に規定する違反行為をした者を除く。)は,7年以下の拘禁刑に処する。
2 営利の目的で前項の罪を犯したときは,当該罪を犯した者は,1年以上10年以下の拘禁刑に処し,又は情状により1年以上10年以下の拘禁刑及び300万円以下の罰金に処する。
3 前2項の未遂罪は,罰する。
麻薬及び向精神薬取締法66条の2
1 第27条第1項又は第3項から第5項までの規定に違反した者は,7年以下の拘禁刑に処する。
2 営利の目的で前項の違反行為をしたときは,当該違反行為をした者は,1年以上10年以下の拘禁刑に処し,又は情状により1年以上10年以下の拘禁刑及び300万円以下の罰金に処する。
3 前2項の未遂罪は,罰する。
大麻草の栽培の規制に関する法律24条
1 大麻草をみだりに栽培した者は,1年以上10年以下の拘禁刑に処する。
2 営利の目的で前項の罪を犯したときは,当該罪を犯した者は,1年以上の有期拘禁刑に処し,又は情状により1年以上の有期拘禁刑及び500万円以下の罰金に処する。
3 前2項の未遂罪は,罰する。
大麻草の栽培の規制に関する法律24条の2
1 第12条の3第1項の規定に違反した者は,7年以下の拘禁刑に処する。
2 営利の目的で前項の違反行為をしたときは,当該違反行為をした者は,1年以上10年以下の拘禁刑に処し,又は情状により1年以上10年以下の拘禁刑及び300万円以下の罰金に処する。
3 前2項の未遂罪は,罰する。
大麻草の栽培の規制に関する法律24条の3
第24条第1項又は第2項の罪を犯す目的でその予備をした者は,5年以下の拘禁刑に処する。
大麻草の栽培の規制に関する法律24条の4
情を知って,第24条第1項又は第2項の罪に当たる行為に要する資金,土地,建物,艦船,航空機,車両,設備,機械,器具又は原材料(大麻草の種子を含む。)を提供し,又は運搬した者は,5年以下の拘禁刑に処する。
大麻草の栽培の規制に関する法律24条の5
第24条及び前2条の罪は,刑法第2条の例に従う。
大麻草の栽培の規制に関する法律24条の6
次の各号のいずれかに該当する場合には,当該違反行為をした者は,3年以下の拘禁刑若しくは50万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。
一 第11条(第17条第1項又は第2項において準用する場合を含む。)の規定に違反したとき。
二 第12条の4第1項(第17条第1項において準用する場合を含む。)の規定に違反して,大麻草の加工をしたとき。
三 第12条の6第1項(第17条第1項又は第2項において準用する場合を含む。)又は第3項(第17条第1項において準用する場合を含む。)の規定による命令に違反したとき。
四 第18条の規定に違反して,大麻草の種子を譲り渡したとき。
五 第19条第1項の規定に違反して同項ただし書の許可を受けないで発芽不能未処理種子を輸入し,又は同条第2項の規定に違反したとき。
大麻草の栽培の規制に関する法律24条の7
1 第24条から第24条の3まで若しくは前条第二号若しくは第三号の罪に係る大麻草,同条第一号の罪に係る大麻又は同条第四号若しくは第五号の罪に係る大麻草の種子で,犯人が所有し,又は所持するものは,没収する。ただし,犯人以外の所有に係るときは,没収しないことができる。
2 前項に規定する罪(第24条の2及び前条の罪を除く。)の実行に関し,大麻草の運搬の用に供した艦船,航空機又は車両は,没収することができる。
大麻草の栽培の規制に関する法律25条
次の各号のいずれかに該当する場合には,当該違反行為をした者は,1年以下の拘禁刑若しくは20万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。
一 第7条第2項(第13条第2項において準用する場合を含む。)の規定に違反したとき。
二 第10条第1項(第17条第1項又は第2項において準用する場合を含む。)の規定に違反して,帳簿を備えず,又は帳簿に記載せず,若しくは虚偽の記載をしたとき。
三 第10条第2項(第17条第1項又は第2項において準用する場合を含む。)の規定に違反して,帳簿の保存をしなかったとき。
四 第12条(第17条第1項又は第2項において準用する場合を含む。)の規定に違反して,大麻を廃棄したとき。
五 第12条の2第1項,第12条の7第1項若しくは第3項又は第12条の8第3項(これらの規定を第17条第1項又は第2項において準用する場合を含む。)の規定による届出をする場合において虚偽の届出をしたとき。
六 第12条の4第3項(第17条第1項において準用する場合を含む。)の規定による報告をする場合において虚偽の報告をしたとき。
七 第12条の5又は第16条の規定に違反したとき。
八 第12条の8第2項(第17条第1項又は第2項において準用する場合を含む。)の規定に違反したとき。
大麻草の栽培の規制に関する法律25条の2
次の各号のいずれかに該当する場合には,当該違反行為をした者は,6月以下の拘禁刑若しくは20万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。
一 第12条の2第1項,第12条の7第3項又は第12条の8第3項(これらの規定を第17条第1項又は第2項において準用する場合を含む。)の規定による届出をしなかったとき。
二 第12条の4第3項(第17条第1項において準用する場合を含む。)の規定による報告をしなかったとき。
大麻草の栽培の規制に関する法律26条
次の各号のいずれかに該当する場合には,当該違反行為をした者は,20万円以下の罰金に処する。
一 第9条又は第15条第1項の規定による報告をせず,又は虚偽の報告をしたとき。
二 第20条の規定に違反したとき。
三 第22条の3第1項の規定による立入り,検査又は収去を拒み,妨げ,又は忌避したとき。
大麻草の栽培の規制に関する法律27条
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人その他の従業者が,その法人又は人の業務に関して第24条第2項若しくは第3項(同条第2項に係る部分に限る。)の罪を犯し,又は第24条の2第2項若しくは第3項(同条第2項に係る部分に限る。),第24条の6若しくは前3条の違反行為をしたときは,行為者を罰するほか,その法人又は人に対しても各本条の罰金刑を科する。
大麻草の栽培の規制に関する法律28条
第7条第3項から第5項まで(これらの規定を第13条第2項において準用する場合を含む。)の規定に違反した者は,10万円以下の過料に処する。
関税法69条の11
1 次に掲げる貨物は,輸入してはならない。
一 麻薬及び向精神薬,大麻,あへん及びけしがら並びに覚醒剤(覚醒剤取締法にいう覚醒剤原料を含む。)並びにあへん吸煙具。ただし,政府が輸入するもの及び他の法令の規定により輸入することができることとされている者が当該他の法令の定めるところにより輸入するものを除く。
関税法109条
1 第69条の11第1項第1号から第6号まで(輸入してはならない貨物)に掲げる貨物を輸入した者は,10年以下の拘禁刑若しくは3,000万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。
刑事訴訟法250条
2 時効は,人を死亡させた罪であって拘禁刑以上の刑に当たるもの以外の罪については,次に掲げる期間を経過することによって完成する。
三 長期15年以上の拘禁刑に当たる罪については10年
四 長期15年未満の拘禁刑に当たる罪については7年
五 長期10年未満の拘禁刑に当たる罪については5年
刑法12条
1 拘禁刑は,無期及び有期とし,有期拘禁刑は,1月以上20年以下とする。
刑法15条
罰金は,1万円以上とする。ただし,これを減軽する場合においては,1万円未満に下げることができる。









